黄色い鳥と猫の日 | 猫の日、まさかの鳥男子 | Title:黄色い鳥のシャツ
二月二十二日、猫の日。
名前はスマートフォンの画面に並ぶ猫の写真を眺めながら、ふと窓の外へ目を向けた。冷たい空気はまだ冬のものだけれど、日差しには確かな春の気配が混ざっていた。
「そろそろ行こうか」
独り言を呟き、軽くストレッチをしてからコートを手に取った。今日は五色と出掛ける約束をしている。行き先は特に決めていないけれど、いつも通り適当に街を歩いて、気になる店に入ることになるだろう。
待ち合わせ場所の駅前に着くと、すぐに五色の姿が目に入った。
しかし――
(……工くん、あれは?)
遠目にも分かる、普段と違う雰囲気。五色はコートを羽織っているものの、前を開けている為、その下に着ているシャツがよく見えた。
「工くん」
声を掛けると、五色はスマホを操作していた手を止めて顔を上げた。
「あ、
名前。探したか?」
「今来たところ。それより……そのシャツは?」
五色は一瞬困惑の表情を浮かべたが、
名前の視線の先を追うように自分の服を見下ろした。胸元には、まんまるとした黄色い鳥のイラストがプリントされている。首をちょこんと傾げた、その愛らしい表情。
「……あー、これか」
「うん。かわいいね」
「いや、違ぇよ! これはたまたま着ただけで……!」
「たまたま?」
「今朝、寮の乾燥機から取り出して着たら……後から気づいたんだよ。多分、川西さんのだって」
「持ち主に返さなくていいの?」
「まあ、今日だけ借りて、帰ったら洗って返す……つもり……」
言葉尻が弱くなるのは、自分でも気まずさを感じているからだろう。五色は口を引き結び、なんとも言えない表情で視線を逸らした。
名前は改めて五色の服装を眺めた。普段の彼はシンプルな服を好むのに、今日はやけにポップなデザイン。鮮やかな黄色は、彼の健康的な肌によく映えている。
「意外と似合っているね」
「……ホントかよ」
「うん。でも、工くんらしくはない」
「だよな……俺もそう思う」
「だけど、その黄色い鳥、工くんに似ている気がする」
「は?」
五色はぎょっとしたように、
名前を見た。
「表情がね。真っ直ぐで、眉毛も凛々しい感じが」
「鳥のイラストの……眉毛?」
「なんとなく、雰囲気がね」
五色は自分のシャツをじっと見下ろした。小さな鳥のイラストが、どこか自分を見返しているような気がする。
「……なんか納得いかねぇ」
「でも、そのシャツを着ている工くんは、いつもより柔らかい印象だよ」
「柔らかいって……俺、普段そんなに怖いか?」
「鋭い眼差しと、強気な態度の所為かな。でも、工くんは本当は優しい人だし」
五色は言葉に詰まった。
名前にそう言われると、妙に気恥ずかしい。
「……そうか」
「うん。だから、そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
五色は少し考え込むように口元を引き結び、それから溜め息をついた。
「……まぁ、いっか」
「そうだね。今日は猫の日だけど、工くんは鳥のシャツを着ているんだね」
「え? ……あっ、ホントだ!」
「ふふっ」
「ってことは、俺、猫に襲われたりしねぇよな?」
「どうだろうね」
「ちょ、ちょっと待て! いや、
名前、冗談だよな?」
「もし猫が飛び掛かってきたら、わたしが守ってあげるから」
「お、おぅ……?」
五色は心なしか顔を赤くしながら、どこか腑に落ちない表情で頷いた。
こうして二人は歩き出す。黄色い鳥のシャツを着た五色は、まるで本当に小鳥のように見えた。