シルバーラインの敗北 | リベンジマッチは、ランジェリーショップで。

 数日前までの、肌に纏わり付くような湿った空気が嘘のように、今日は空がどこまでも高く、深く、吸い込まれそうなほど青く澄み渡っていた。じりじりと肌を焼く太陽の下、俺はバレー部の練習で滝のように汗を流し、心地よいと言うには少しばかり激しい疲労感を全身に纏いながら、寮へと帰還した。共有のシャワー室で熱いシャワーを浴び、練習で火照り切った身体を冷ます。備え付けの、少し曇った鏡の前に立ち、ごわごわのタオルで乱暴に髪の水分を奪いながら己の顔を覗き込むと、そこにはいつもより妙に赤らんだ自分が居た。  原因は、火照りだけではない。それは明白だった。ここ数日、まるで壊れたレコードのように、頭の中で繰り返し再生されるのは、あの雨の朝の名前の言葉と、その時の小悪魔めいた表情だ。 『今度、わたし好みの下着を、本当に選んであげようか?』  ――くそっ、なにが「本当に」だ! あの言葉が、甘い毒を含んだ悪魔の囁きみたいに耳の奥で反響し続けて離れねぇ。こっちはあの雨の朝、一矢報いたつもりでいたのに、まさか、あんな風に余裕綽々の、女王様みたいな態度で切り返されるなんて。思い出すだけで、腹の底からマグマみたいな何かが込み上げてくる。あの時の名前の瞳――挑発的で、面白がっていて、それでいて、こちらの魂胆まで全て見透かしているかのような、勝ち誇った小悪魔の笑み。 「……っ、舐めやがって……!」  無意識の内に、鏡の中の自分を睨み付けながら拳を強く握り締めていた。洗面台に無造作に置かれたタオルが、俺の内に渦巻く怒りで微かに震えているようだ。  いや、待て。ここでただ悔しがっていても、それこそ名前の思うツボだ。そうだ、俺はあの時、リベンジを誓った筈だ。次こそ、あの常に冷静で余裕ぶった綺麗な顔を、真っ赤に染め上げてやるって。今度こそ、俺がこの関係の主導権を握るんだ。 「……よし」  決意を新たに、俺は自室へと戻り、ベッドの上に放り投げてあったスマホを掴み取った。妙に汗ばみ、微かに震える指でロックを解除し、メッセージアプリを起動する。トークリストの一番上にある彼女の名前をタップし、トーク画面を表示させる。タイミングが良いことに、明日の日曜は部活もオフだ。デートの誘いを装って、リベンジの狼煙を上げてやる――。心臓が、やけに早鐘を打っている。これはきっと、決戦前の武者震いだ。そうに違いない。そう思わなければ、やってられない。
 ――そして日曜日。約束の時間より少し早く、俺は苗字家の瀟洒なマンションの前に立っていた。何度か訪れている筈なのに、今日に限ってエントランスのインターホンを押す指が、鉛のように重く感じる。大きく深呼吸を一つして、意を決して呼び出しボタンを押した。 『はい』  スピーカー越しに聞こえてきたのは、絹のように滑らかで、鈴を転がすように澄んだ声。それだけで、俺の心臓はまたしても大きく跳ね上がり、平静を装うのが難しくなる。 「……お、俺だけど」 『ふふ、分かっているよ。今、開けるね』  ピッ、と軽い電子音を立ててオートロックが解除される。静かに上昇するエレベーターの中で、俺はもう一度、鏡に映る自分の姿を確認した。大丈夫、変じゃない。……多分。目的の階で降り、重厚なドアの前に立つと、既に内側から鍵が開けられる微かな音が聞こえた。 「工くん、いらっしゃい。どうぞ入って」  玄関で出迎えてくれた名前は、淡いグレイッシュブルーのワンピースを身に纏っていた。柔らかなドレープを描く上質な布地が、彼女の透けるような白い肌によく映えている。窓から差し込む午後の陽光を受けて、生地が微かに光を孕み、その輪郭を淡く滲ませる様は、どこか儚げで、思わず息を飲む程に美しかった。その姿を目にした瞬間、胸の奥がきゅっと締め付けられるような、甘い痛みに似た感覚に襲われる。駄目だ、やっぱり駄目だ。相変わらず、こいつがこんな風に近くに居るだけで、心臓が煩くて敵わねぇ。 「お、おう……お邪魔します……」  動揺を悟られまいと、わざとらしく一つ咳払いをしてから靴を脱ぎ、磨き上げられた廊下を進む。リビングへと足を踏み入れると、ふわりと甘く香ばしい、バターと小麦粉の焼ける匂いが鼻腔を擽った。ローテーブルの上には、繊細な絵柄の上品なティーセットと共に、白い籠にこんもりと盛られた、まだ湯気を立てている焼き立てのスコーンが鎮座している。今日は、少し早めのティータイムということらしい。 「丁度、焼き上がったところだよ。温かい内にどうぞ。クロテッドクリームと、手作りの苺ジャム、どっちがいい?」 「りょ、両方……!」  内心の緊張と、目の前に差し出された黄金色のスコーンへの抗い難い食欲とが混ざり合い、思わず声が少し上擦って大きくなってしまった。  名前は、俺のそんな反応が可笑しかったのか、くすりと悪戯っぽく微笑んで、驚くほど手際良くスコーンを一つ、俺の分の純白の皿に乗せてくれる。その白魚のような指先の動きすら、どこか洗練されていて優雅に見えてしまい、俺の視線はまたしても彼女に釘付けになってしまう。ダメだろ、俺。今日はリベンジに来たんだ。見惚れている場合じゃない。  温かい紅茶を一口飲み、その芳醇な香りと温もりが少しだけ強張っていた神経を解きほぐしてくれたところで、名前がふと小首を傾げて、じっと俺の顔を見た。 「それで、工くん。今日はどうしたの? なんだか……いつもより少し、緊張しているように見えるけれど」  鋭い。核心を突かれ、心臓がドクリと跳ねた。そんなに顔に出てたか? 落ち着け、俺。ここでビビってどうする。リベンジしに来たんだろうが。  俺は意を決して、カップをソーサーにカチャリと戻し、テーブルの上で指を組みながら、居住まいを正した。背筋を伸ばし、名前の澄んだ瞳を真っ直ぐに見返す。 「……あのさ、名前」 「うん?」  小首を傾げる仕草が、やっぱり気紛れな猫みたいで、不覚にも胸の奥が微かに疼く。可愛いと思ってしまう自分が居ることに、内心で舌打ちした。 「……この前のこと、憶えてるか?」  俺の言葉に、名前は一瞬だけ悪戯っぽく瞳を細めて、わざとらしく宙を見上げる素振りを見せた。その仕草すら計算され尽くしているようで、腹立たしいのに目が離せない。 「……うーん、どのことかな? ここ最近、工くんとは色々あった気がするけれど……。あ、もしかして、『わたし好みの下着を選んであげようか』って言った話?」 「~~~っ!!」  やっぱり憶えてやがった! しかも、悪びれもせず、涼しい顔で言い放つんだ、こいつは! 顔にカッと熱が集まるのを感じながらも、俺はそれを悟られまいと必死で平静を装い、深く息を吸い込んだ。ここで動揺したら負けだ。 「……そ、そうだ。お前が言ったんだからな。約束は約束だ。ちゃんと、選ばせてやるよ」  虚勢を張り、できるだけ堂々とした声音でそう言い放つ。 「ふぅん……そうなんだ。わざわざありがとう」  思った以上に、冷静で、凪いだ湖面のような反応。だが、その透き通るような瞳の奥には、確かに面白そうな、キラキラとした好奇の色が宿っているのが見て取れた。よし、乗ってきた。  俺は心の中で小さくガッツポーズを作り、畳み掛けるように勝負を仕掛けた。 「それでさ、今日はその為に、これから下着屋に行こうと思ってるんだけど」 「え? わたしと、一緒に?」 「当たり前だろ! お前が選ぶって言ったんだからな!」  そう言い放った瞬間、名前の白い頬が、ほんの僅かに、だが確かに桜色に染まった気がした。  ――よしっ! してやったり! そう思ったのも束の間、彼女はふわりと、花が開くような優雅な微笑みを浮かべながら、驚く程あっさりと頷いた。 「うん、いいよ。行こうか」 「……え? ……ま、マジかよ……」  予想を遥かに超える、余りにもあっさりとした了承に、今度は逆に俺の方が動揺してしまった。もっと抵抗されるか、或いは揶揄われるかと思っていたのに。この展開は全くの想定外だ。  けれど、もう後には引けない。引くつもりも毛頭ない。俺はまだ気づいていなかった。この時点で既に、俺は名前の掌の上で踊らされていたのかもしれないということに。
 休日の昼下がり、明るい陽光がサンサンと降り注ぐ、活気に満ちたショッピングモールの中を、俺達は並んで歩いていた。目的の場所は、ただ一つ――名前が「わたし好みの下着を選んであげる」と宣言した、俺の下着を買いに。  正直に言えば、俺としては近所の大型スポーツ用品店で売ってるような、機能性重視の無難なボクサーパンツで充分だと思っていた。だが、どうやら名前の中では、俺のささやかな認識とは全く異なる、壮大な(?)プランがあるらしい。 「工くん、こっちだよ」 「お、おう……って、え? ここ!?」  まさか、こんなにも白昼堂々、華やかで、色とりどりのレースやフリルが溢れるランジェリーショップに再び連れてこられるとは、夢にも思わなかった。名前は、まるで近所のコンビニにでも立ち寄るかのように、普段と全く変わらない涼やかな顔で、俺の手を(いつの間にか、極自然に引かれていた!)引きながら、躊躇いなく煌びやかな店内へと足を踏み入れる。  店内には、繊細な刺繍が施されたブラジャーや、艶やかなサテン生地のショーツが、宝石のようにディスプレイされている。ふんわりとした甘く、少し蠱惑的なフローラル系の香りが漂っていて、明らかに場違いな俺は、どこに視線を向けていいのか分からず、完全に挙動不審な状態でキョロキョロと辺りを見回してしまった。 「……なぁ、名前、やっぱり別の店でも――」  俺の声は、情けない程にか細くなっていた。 「ダメ。わたしが工くんのを、ここで選ぶって決めたんだから」 「……うぐっ」  有無を言わせぬ、穏やかだが妙に芯の通った強い口調に押し返され、俺は観念するしかなかった。周囲の女性客からの、好奇と訝しみが入り混じったような視線が、背中に突き刺さるように痛い。落ち着かないこと、この上ない。だが、隣の名前は、そんな周囲の空気など微塵も意に介していない様子だ。流石と言うべきか、神経が鋼鉄で出来ているのか……。 「あ、工くん、こっちにメンズコーナーがあるみたいだよ」 「へ? マジか……こんなフェミニンな店にもあんのか……」  名前が指差す店の奥の一角に、漸く俺にも関係がありそうな棚が見えた。ボクサーブリーフやトランクスが、サイズごとに整然と畳まれて並んでいる。とは言え、華やかな女性物に比べればかなりささやかなスペースだが、それでも色やデザインが意外と多彩で、少しだけ驚かされた。  名前は、美術館で名画でも鑑賞するかのように、ゆっくりとその棚の前を行き来し、一つひとつ商品を手に取って、その生地やデザインを吟味し始めた。その真剣な横顔は、相変わらず綺麗だが、置かれている状況が状況だけに、俺は生きた心地がしなかった。針の筵とは、正にこのことだ。 「ねぇ、工くん、これなんてどうかな?」 「どれどれ……って、うおっ!?」  名前が俺の目の前に、悪戯っぽく微笑みながら差し出したのは、艶やかな光沢を放つ黒地に、鮮烈な赤いラインが稲妻のように走る、妙にタイトなシルエットのボクサーブリーフだった。素材は、なんだかツルツルしていて伸縮性がありそうで、やけに……挑発的でセクシーな雰囲気を醸し出している。  なんだこれ!? 絶対に穿き心地が落ち着かないだろうし、第一、見た目が恥ずかし過ぎる! こんなの穿いてる姿を誰かに見られたら、いや、自分で鏡で見るだけでも、羞恥で爆発四散してしまう! 「いやいやいや! これ絶対ムリだろ! スポーツできねぇよ、こんなんじゃ!」 「ふふ、これはスポーツ用じゃないもの。でも、工くんの鍛えられた身体には、きっと似合うと思うけれど?」 「似合うとか似合わないとか、そういう次元の問題じゃねぇって!」  俺が必死に首を横に振って抵抗すると、名前は少しだけムッとしたような、拗ねたような表情で俺を見つめてきた。その上目遣いの視線に射竦められ、言葉に詰まる。マズい、完全に遊ばれてる……! これは、あの雨の日の仕返しを、遥かに上回る精神攻撃だ!  名前は、俺の反応を心底楽しんでいるかのように、くすくすと喉の奥で笑いながら、次々と別のデザインを手に取っていく。無地のシンプルなものから、可愛らしいチェック柄、爽やかな印象のストライプ柄、更には意味不明なキャラクターが全面にプリントされたド派手なものまで――どれもこれも、普段の俺の選択肢からは、銀河系の彼方ほど懸け離れ過ぎている。 「……うーん、でもやっぱり、工くんには、もう少し落ち着いた色の方が、普段使いにはいいかな」 「そ、それがいい! 絶対、落ち着いたヤツがいいって!」  思わず食い気味に、安堵と共に同意する。 「ふふ、そんなに焦らなくても大丈夫だよ。ちゃんと素敵なの、選んであげるから」  何が大丈夫なのかさっぱり分からないが、名前が穏やかに微笑むと、不思議と反論する気力が削がれていく。彼女のペースに、完全に飲み込まれている。  そのまま、熱心に選定を続ける名前の後ろ姿を、複雑な心境で眺めていると、ふと、俺の中にある恐ろしい疑念が鎌首を擡げた。 (待てよ……これって、もしかして……)  まさかとは思うが、名前は本気で、俺にあの赤ラインみたいな“勝負下着”的なものを穿かせるつもりなんじゃないか? だとしたら、これは完全に、先日の「今日は、工くんが選んでくれた下着をつけているよ」事件の仕返しに対する、周到に計画された逆襲なのではないか……?  背筋に、じわりと冷たい汗が流れるのを感じる。俺は何とか自分の好みを伝えようと口を開き掛けるが、名前は「これもいいな」「あ、こっちの色も捨て難い」などと楽しそうに呟きながら、様々な柄を俺の腰の辺りに軽く当てては、うーん、と唸っている。完全にペースを握られている……! 主導権奪還どころか、防戦一方だ。 「ねぇ、工くん、これなんてどうかな?」 「え……? ああ、うん、それは……意外と普通……か?」  次に、名前が手に取ったのは、深みのあるネイビーの無地で、サイドに細く白いラインが入った、比較的シンプルなデザインのボクサーブリーフだった。少し光沢のある滑らかな素材で、形もスタイリッシュに見える。これなら、まあ、ギリギリ許容範囲か……?  ホッと胸を撫で下ろした、正にその瞬間―― 「でも、こっちのデザインも、工くんの身体のラインが綺麗に見えそうで捨て難いね」 「うわっ!? そ、それは……!」  続いて、名前が手に取り、悪戯な輝きを瞳に宿しながら俺の目の前に突き付けてきたのは、黒地にシルバーのシャープなラインがアクセントになった、ややローライズ気味で、身体にぴったりとフィットするタイプのボクサーだった。生地も先程のネイビーより薄手で、なんだか妙に……肌の質感が透けて見えそうな程、色っぽく見える気がする。  俺は顔がカッと熱くなるのを感じながらも、最後の抵抗を試みる。 「お、俺、普段はもっと地味な、綿とかの、その、普通のヤツばっかりで……」 「うん、知っているよ。だからこそ、偶にはこういう、ちょっと特別な感じなのもいいんじゃないかなって思うの」 「……っ」  名前の瞳が、じっと俺を見つめている。その真剣な眼差しには、揶揄いだけではない、不思議な熱と、純粋な好意のような色が宿っているように見えた。駄目だ、この空気に飲まれたら、完全に俺の負けだ。俺は仕返しをする側だってのに、これじゃ完全に主導権を奪われっぱなしじゃないか。  ……だが、ここでゴネて、更に奇抜なデザインを選ばれるよりはマシか……? それに、名前がこんなに真剣に選んでくれたものを、無下に断るのも……なんだか、悪い気がする。 「……分かった。じゃあ、その……黒とシルバーのヤツにするよ」  諦めにも似た気持ちで、俺は力なく呟いた。 「本当に? ふふ、嬉しい。じゃあ、さっきのネイビーのも。それから、普段使い用にこれも。……うん、全部、プレゼントしてあげるね」  結局、名前が最終的に選んだのは、俺が渋々了承した少し攻めたデザインの黒とシルバーのものと、比較的シンプルなネイビーのもの、そしてもう一つ、肌触りの良さそうなチャコールグレーの無地の、計三着だった。複雑な心境のままレジへと向かい、名前がにこやかに、そしてどこか満足げに支払いを済ませるのを、俺はただ呆然と見ているしかなかった。  色とりどりのランジェリーに囲まれた空間から解放され、漸く人混みに戻ると、少しだけ現実感が戻ってきた。名前は、小さな紙袋を嬉しそうに揺らしながら、俺の隣を歩いている。その横顔は、大きな仕事をやり遂げた、達成感に満ちているように見えた。 「ねぇ、工くん」  不意に、名前が立ち止まり、俺を見上げて言った。午後の光が彼女の髪を淡く照らし、瞳をキラキラと輝かせている。 「ん? なんだよ」 「今度、この下着を穿いてるところ、ちゃんと見せてね?」 「――――!?」  一瞬、思考が完全に停止し、足が地面に縫い付けられたように動かなくなった。名前の、どこまでも無邪気で、それでいて全て計算されているかのような破壊力抜群の微笑みが、俺の心を真正面から、寸分の狂いもなく撃ち抜いた。  その癖、彼女は俺の凍り付いた反応を確かめるように一瞬だけ目を細めると、すぐに何事もなかったかのように、ふわりと軽やかに身を翻し、すっと前を歩き出してしまう。その背中が、楽しそうに小さく揺れている。 (……っ~~~! この仕返し、やっぱり一筋縄じゃいかねぇ……!!)  悔しさと、猛烈な恥ずかしさと、そして心の奥底で否定しようもなく疼く、ほんの少しの期待(いや、断じて期待なんかしてない! 絶対に!)が入り混じった、ぐちゃぐちゃな感情のまま、俺は真っ赤になった顔を手で覆い隠しながら、彼女の軽やかな背中を慌てて追い駆けた。  それでも、不思議と、心の中ではチリチリと小さな音を立てるような、温かい炎が確かに灯っているのを感じていた。それは、悔しさか、闘志か、それとも……。  次こそは。次こそは、絶対に、俺が勝つ――!  そう固く誓いながら、俺は夕暮れの色に染まり始めた、どこまでも高い空を見上げた。今日のこの完膚なきまでの敗北は、次なる輝かしい勝利への布石だ。……そう信じたい。多分。



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