38.君を敷き詰めて眠る

 どれくらい、そうしていただろうか。互いの心臓の音だけが響く静寂の中で、俺は腕の中の存在を確かめていた。シャンプーの甘い香りが鼻腔を擽り、全身の強張りが抜けていく。さっきまでの絶望が嘘のように、満たされた安堵感が身体の隅々まで染み渡っていく。

恋着反応レポート(限定公開)

 十二月の声を聞くと、街は途端に浮き足立つ。煌びやかなイルミネーションが夜を飾り、ショーウィンドウにはサンタクロースと並んで、幸せそうな恋人達のマネキンが微笑んでいた。そんな喧騒を背に、俺は慣れた足取りで、苗字家のマンションへと向かう。

18本目の願い事

 わたしのカレンダーに、赤いインクで二重丸が付けられた今日、七月五日は、世界で一番大切な人の誕生日だ。
 じりじりと肌を焼く太陽がアスファルトを温め、気怠げな熱気が教室の窓硝子から忍び込む。窓の外では、入道雲が空という名の画用紙の上で、その巨大な体躯をゆっくりと膨らませていた。

54.熟れて落ちてぐちゃり

 茹だる、という表現は、こういう日の為に在るのかもしれない。
 七月の半ば。梅雨明けを宣言するみたいに、空の青は目に痛い程で、アスファルトは陽炎を立ち昇らせていた。凡そ生命活動に適しているとは思えない外気温に、おれの体力ゲージはとっくに底を突いている。

空飛ぶ倫太郎の哲学

 俺、角名倫太郎は、基本的に省エネで生きていたいタイプの人間だ。練習中のロードワークでは近道を探すし、双子の喧しいやり取りは真顔で処理する。感情の起伏は少ない方だと自負しているし、大抵のことは「まあ、そういう日もあるよね」で済ませてきた。

夜香の座標

 夜の冷気が肌を刺す中、隣に座る名前の体温だけが確かな熱源だった。マンション前のベンチで暫し息を整えていると、彼女の纏う柔らかな香りがふわりと鼻腔を擽る。それは古い本の紙の匂いと、どこか甘い花の香りが混ざり合った、彼女だけの特別な香りだった。

塩キャラメルが跳ねる夜

 月曜日は世界から色が少しだけ失われる日だ。週末の浮ついた空気が嘘のように静まり返った校舎は、まるで巨大な生き物の抜け殻のようで、わたしは余り好きではなかった。けれど、今日の月曜日はちょっとだけ違った。何故なら、本日は英くんの部活がオフの日だから。彼と二人で帰れる、ただそれだけの事実が、灰色だった筈の世界に淡い色彩を添えてくれる。

0.4秒の嫉妬

東峰さんの鬼気迫る形相と、ゴールラインまでの全力疾走に等しい逃走劇による疲労感で、俺の体力ゲージは既にレッドゾーンを振り切っていた。お化け屋敷の出口で壁に手を突き、ぜえぜえと肩で息をしながら隣を見ると、名前は僅かに息を弾ませているものの、その表情は涼しいままだった。

月色マスカレード

昼休みを告げたチャイムが停戦協定だったとするなら、五時限目の終わりを告げるそれは、新たな戦いの火蓋が切って落とされる号砲だった。
僕の精神は、あの白昼の公開処刑以降、完全に機能を停止していた。古典の授業で教師が何を語っていたのか、数学の黒板にどんな数式が並んでいたのか、記憶のどこを探っても靄が掛かったように曖昧だ。

48.ネズミ捕りにチーズはいらない

苗字家の壮麗な屋敷の門が、静かに視界の後方へと流れていく。ひんやりと澄んだ夜気が、庭園で燥ぎ過ぎて火照った頬を撫でるのが心地良かった。けれど、そんな上辺の冷却とは裏腹に、心の芯はまだじんじんと熱を帯びて融けそうだ。

50.誤魔化すための

十二月の午後の陽光は、どこか遠慮がちだ。窓ガラスを透かして射し込むそれは、部屋の隅々に淡い琥珀色の化粧を施し、舞い上がる埃さえもキラキラと輝かせる魔法のようだった。
わたしの恋人、赤葦京治くんの部屋は、彼自身を映したかのように整然としている。

シナモンの夜に割り込むコーデュロイ

ソファの上には、まだ二人分の確かな余熱が、そこに見えないインクで『先程まで誰かが居た』と書き残したかのように、執拗に残っていた。俺はキッチンで温め直した紅茶を二つのカップに注ぎ、ローテーブルの上にそっと置く。カチャリ、と陶器が触れ合う小さな音だけが、部屋の静寂に吸い込まれていく。

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2025-07-08
Theme ... 五色工
∟38.君を敷き詰めて眠る
2025-07-07
薔薇色の兄弟録 ... 黒尾鉄朗
∟恋着反応レポート(限定公開)
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